ゼロ、いや、マイナスを前提として、いかに豊かに、たくましく生きていくか… ●南相馬で聞いたこと、見たこと(4)


翠の里をあとにし、向かったのは、二本松の農家レストラン季の子工房」さんです。季の子工房さんとの出会いは、選挙フェスが行われたアースガーデンの会場でした。「福島フェス」として、福島の物産を売るブースのひとつとして出店されていたのです。パンやワイン、ジャムなど、私が目がないものたちが並んでいたので声をおかけしました。


そこで聞いたお話が印象的でした。もともとなめこ農家だったそうなのですが、原発事故の影響でいったんなめこの販売を止めざるを得なくなり、再起にあたり、ただ農作物をつくるだけではなく、加工から流通までじぶんたちでチャレンジする「第六次産業」としての取り組みを始めているとのことでした。


季の子工房さんは地域自立ということにこだわっていて、DIYのソーラーや薪などを積極的に使っているとのことでした。ソーラーは停電のときには役に立ったけれども、夜間など太陽が出ていないときは電気がつくれず困ったそうです。そこで再生可能エネルギーを地域でつくって貯めて使うというR水素のことをお話ししたところ、興味を持っていただけました。そしてその日は「機会があればレストランにうかがいますね」と別れたのでした。



それからほどなくして訪れた季の子工房は、とても素敵な場所でした。その日は雨だったのですが、猫たちがくつろぐウッドデッキで、ご家族みんながあたたかくお出迎え。料理を待っている間、なんでも自分でやってしまうというお父さんとお話ししました。スマートな感じの方なのですが、お話をしていると精神的なたくましさを感じます。なんでも自分で考えて、自分でやってみる。そんな静かなインディー精神がカッコよかったです。



放射能のことも核種から健康への影響までをよくご存じで、なめこ栽培も独自の工夫で再開されました。放射能原発については、その危険性を日本の人が知らな過ぎることに危機感を覚えておられ、フランスで使っているという原発の教育ツールも見せていただきました。エネルギーの問題も、グローバルな視点から考えておられ、なんと気候変動の国際的な会議に、農家という立場で出席されたそうです。いまの日本で進められている再生可能エネルギーが送電線に依存する売電モデル一辺倒だということ、化石燃料に頼ることでの環境への影響など、R水素ネットワークが訴え続けていることをお話しされていて驚きました。



東京では、R水素ネットワークの代表であるハルさんの発言はエキセントリックに聞こえます。命を優先すること、地球市民として考えること。その結論として、R水素があるという話は、東京ではなかなか通じません。命や地球という話をすると、おおげさに取られるようです。質問もとかく、コストやベネフィット、リスクやリターンの話が多く、「現実的ではないね」と片付けられてしまうのです。ところが南相馬でお会いした人たちにR水素は、「命を傷つけないというのが素晴らしいですね」と、細かい説明をせずに受け入れていただけたのです。いつもはハルさんがグローバル、そして宇宙的な視点から話をして通じないところを私がフォローしたりするのですが、南相馬ではその必要はまったくありませんでした。お父さんとは、いつかこのレストランもR水素にできるといいですね、という話で盛り上がりました。




お話をしている間にも、お料理が次々と運ばれてきます。サラダ、スープ、パスタにデザート。どれもひと工夫凝らした深いおいしさ。ひとり1500円でいただくのがもったいないクオリティでした。オプションで頼んだなめこピザも最高でした。


お腹いっぱいでの帰り道、今回南相馬でお会いした人たちの顔を思い浮かべては胸が熱くなりました。どの方も、決然としているというか、すっきりとした顔をされていました。迷いがない姿勢で、自分の頭と手で生きている。このところ日本でも気候変動の影響が出てきていて、どう生き延びるか、ということが一人ひとりに問われる時代が来ているように思います。そう考えると、未来のライフスタイルというのは、東京ではなく、南相馬にあるのかも知れません。ゼロ、いや、マイナスを前提として、いかに豊かに、たくましく生きていくか。今回の旅は、そんなことを本気で考えるきっかけになりました。