「田んぼを奪われたんです。仕事と生き甲斐を奪われたんです」。南相馬で聞いたこと、見たこと(3)


翠の里に帰ってからは、夕食。地元でとれた旬の野菜に、お父さんが仕入れた新鮮なお魚。お腹いっぱいになったあと、小倉さんご夫婦とゆっくりお話ししました。お父さんはかつてスーパーにバイヤーとしてお勤めで、何度かの転勤を経て、南相馬Iターン。地元のスーパーに鮮魚担当としてお勤めでした。それが原発事故の影響でスーパーを解雇になったとのことです。奥さまはIターンされてから農家レストランをはじめられ、後に農家民宿をするようになったとか。いまは二人で畑をやりながら民宿をするという生活をされています。


奥さまは、原発でご主人が解雇されたことも、不幸だとは思っていないとおっしゃっていました。いま民宿をして色々な人とお話しすることができるのが楽しい、ここでいろいろな人たちがつながって活動が広がる様子とかを見ていると幸せだとおっしゃいます。お話をしていて印象に残ったのは、震災直後と、1年たってからの心の変化です。


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地震が起こってすぐのころは、お金なんかいらない、助け合って生きていければそれでいいと思った。でも1年たったら、やっぱりお金は必要だと言う人が多くなった。ギラギラした目をたくさん見るようになった。でも、もういちどあのときの気持ちを思い出してほしいんです。


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この言葉に、翠の里を続けていらっしゃる想いがこもっています。忘れないでほしい。思い出してほしい。震災で失った大きなものを忘れないでほしい。いまも傷ついている人たちがいることを忘れないでほしい。そして、お金よりも、命や助け合いの気持ちが大切だということを思い出してほしい。そんな願いを込めて、南相馬に留まり農家民宿を営まれているのだと思います。ご主人からは、残った人たちの気持ちを聞きました。


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国のことも東電のことも信用できない。地震があってからしばらくして、「福島第一原発が爆発しました」と放送があった。それから数時間して、「先ほどの放送は間違いでした」という放送が流れた。本当に、国も東電も信用できない。


日本中で原発反対運動が起こっていると聞いて驚いた。こんな事故が起こったら、原発はやめるのが当たり前だろう。それなのに変わらない。運動をしなければいけないとうのがおかしい。


原発事故の補償金をもらっている人がパチンコに行っていることを非難する人たちがいる。でも、農家の人たちは田んぼを奪われたんです。仕事と生き甲斐を奪われたんです。何をしたらいいのかわからなくなる人もいる。そのことをわかってほしい。


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こういうことは、なかなか地元では言えないそうです。原発から仕事をもらっていた人もいるからです。よく、安全なところから反対運動なんかするもんじゃないという声も聞きますが、安全なところにいるからこそ、声を出せない被災地の人たちのために声を上げ、運動をしていかなければいけないじゃないかと思いました。

ひとしきりお話をしたあと、お風呂に入り、お布団へ。清らかな風を感じ、虫の声を聞きながらの睡眠は、街での暮らしでたまった疲れとストレスをすっかり癒してくれました。


翌朝はハナちゃんの散歩をしながらお父さんの畑をぶらり。そして、お野菜たっぷりの贅沢な朝ごはん。


そのあとは稲わらを使ったワークショップ。材料費300円で、こんなにかわいいお馬さんができました。


あたたかいおもてなしとおいしいお食事、そして貴重な話が聞けて宿泊費はなんと5500円。震災のことを忘れないためにも、自分をリセットするためにも、また訪れたいと思います。