バズどころじゃない、ガチな地方創生の話を聞いた

但馬武さんが主宰する定例イベント「HOME」で、宮崎県日南市でマーケティング専門官を務める田鹿倫基さんの話を伺いました。タイトルは「流出が止まり、流入が増えた!宮崎県日南市から学ぶ、人口と地域の関係の作り方」。POZIで取組んでいる熊本県水増集落の地域おこしのヒントが得られればと、気合を入れて臨みました。

ハッとさせられる内容だったので、自分の備忘録としてブログにメモを残しておきます。田鹿さんのプレゼンと、田島さんとの対談の内容を私なりにまとめたものです。

田鹿さんたちの商店街での取り組みについて詳しくは、こちらのgreenz.jpのインタビュー記事をぜひ!

シャッター商店街の再生】

 油津商店街はかつてマグロ漁で賑わった港のそば。マグロの漁獲高はいまや最盛期の100分の8にまで減少。港の勢いがなくなるとともに商店街もさびれていき、昭和40年代には80店舗あった商店街の店舗は20店舗に。

商店街の再生はまず、「ABURATSU COFFEE」のオープンからはじまりました。老舗の喫茶店だった空き店舗をリノベーションし、シアトル系のコーヒーショップに仕立てたのです。うまくいきっこないと言われる中、ABURATSU COFFEEは大人気に。

「若い人向けだけのお店か」というクレームを逆手に取って、カフェの次は隣に豆腐料理が食べられるお店をオープン。こちらも大人気に。

お店が成功して話題になり出したころ、IT企業のオフィス誘致に成功。もともと地元にいた人やUターンしてきた人を中心に、約100名の雇用を生み出すことができました。IT企業で働く人のほとんどは若い女性。いままで地元では介護などしか仕事がなく、魅力がある仕事を探して外に出て行っていた人たちが留まったということですね。

若い女性がたくさん働くようになると、その周りにランチをしたり飲みに行ったりするためにお店が増えていくことになり、また保育園もできることになり、と、雇用が消費を生み、消費が雇用を生むという循環が地元でできるようになりました。

また、こうした成功が地方創生のモデルとして注目を集めたために学生がゲストハウスをつくったところこちらも成功しているそうです。

企業誘致のポイントは、ビジネスモデル、社長とその右腕の人柄、財務状況だそうです。中小のIT企業に目をつけたのは、これから伸びていく企業だと、これから雇用する人が増えていくから。そして、都市部では優秀な人材を大手に持って行かれがちなので、地元で採用して育成することで、働き続けてもらえるメリットがあるからです。大都市に本社がある大企業を誘致しても、その稼ぎが本社に吸い取られるとうまみは小さくなります。

 【城下町の再生】

日南市には古い城下町もありました。その城下町の課題は空き家。武家屋敷が空き家となり、行政はその維持・管理を負担していました。そこで民間でマネタイズできるよう、お屋敷をホテルにリノベーション。素泊まりで1万5千円くらいもするのですが、外国人が連泊するなどで盛況だそうです。その宿泊胃が修繕費となり、城下町の景観維持につながっています。

 【注目したのは、人口動態】

地域を活性化させ、永続性を高めていくために注目しないといけないのは人口動態。つまり、人口の変化です。財政を健全化させるためには、人口ピラミッドがドラム缶のような形になるのが理想。いま日本の地方で起きている問題の原因は、人が減っていることではなく、人口ピラミッドの歪みが原因なのです。

地域おこしの目的は、持続可能な地域にするために地元で経済がまわり、文化を伝承していくこと。観光や工場の誘致は目的ではなく、手段でしかありません。

人口動態をドラム缶型にするために大切なのは、2030代の女性を地域に残すこと。都市から離れ、ベッドダウンになれない地域は、彼女たちに残ってもらうために、住み、仕事をし、産み育ててもらう環境をいかにつくれるかが鍵になります。

人口動態の中でも、特に大事なのが「社会増減」。生まれ、死ぬ人による増減ではなく、転入、転出による増減です。高卒時の人、社会人、第二社会人の増減の転出を止めるために何が必要なのかをデータに基づいて施策に落としていきます。

日南市の地域おこしのKPIは、地元の平均給与を上げること。そこが、人口流出を食い止める決め手になるからです。

 【ここ数年の地方創生の動きについて】

背景として、東京が子どもを生み、育てにくい街になっていることがあります。このまま東京に人口が集中すると、人口が減っていきます。そこで、人口ピラミッッドを安定させるために、子どもを生み、育てやすい地方を増やしていこうということになっています。また、国としては地方に払う交付金を減らしていくために、残していく地域と消滅させてく地域を選別したいという意図もあります。

地方創生がいちばんうまくいっているのは、長野県の南箕輪村。徹底的に子育て支援に取り組むことで移住者を増やしている。でも、一般的には知られていません。予算を派手なPR動画などに使わず、子育て支援に集中しているからです。

成功と失敗を左右するのは、多様性を受け入れられるかどうか。変化に対して肝要か。宿場町や貿易港などは人を受け入れることで成功してきた体験があるのでうまくいきやすい。逆に、城下町や漁港は変化を受け入れにくい。(その二つを兼ね備えた日南を再生させたのはスゴい!)

日南市はトップのビジョンが明確で推進力がありますが、そうでないところの場合は、草の根でうねりをつくっていくことが大切。この地域はヤバい、というネタをつくって、そこに色んな人を巻き込んでいく。視察や研修にきてもらうなどして、交流を図ってムーブメントをつくっていく。まずは観光以上、移住未満の関係人口を増やしていくこと。

いままで地方の次男、三男が送り込まれてくることで、若い人たちが多くなっていた東京は、少子化とともに厳しくなってきます。新しい若い人が減っていって、高齢化が急速に進んでいきます。東京で働く人の税金は、地方と高齢者に使われる傾向が強くなります。一人ひとりも、東京だけに住む、働くの拠点を持つのではなく、いろいろなオプションを持っているほうがこれから豊かになれます。

地方での暮らしが豊かなのは、自給や物々交換などの貨幣によらない経済があり、収入だけでなないポートフォリオが可能だからです。そして、人が少ないと同じ人と何度も顔を合わせないといけないので、失礼なことができません。信頼がベースになるので、性善説で行動でき、人を疑う労力が少ないこともいいところです。

 【感想】

今回のお話を聞いて、私の中で「地域おこし」に対する解像度がグッと高まったような気がします。人口動態は、これから地方だけでなく日本全体を左右します。目先のお金の動きだけに目を奪われず、長期的な流れを読み、どう動いていいくか。ビジネスでも、人生でも、そこがますます問われてくるのではないでしょうか。