6月20日に生まれて〜映画「ラブ&マーシー 」を観ました


はじめて買ったCDは、ビーチボーイズのベスト盤でした。きっかけはテレビ番組。KBS京都で、ロックグループの歴史を代表曲とともに振り返る30分くらいのシリーズ番組をやっていたのです。その中でビーチボーイズの回があり、楽曲のカッコよさにノックアウトされたのでした。


それからバンドの歴史が書かれた本を読み、ブライアン・ウィルソンという天才の苦しみにも衝撃を受けます。「うつろな目でベッドのふちを爪でカタカタ鳴らして音を奏でていた」というブライアンの引きこもり時代の描写は、当時中学生だった私に強烈な印象を残しました。


悲劇の天才としてロックの歴史の中で生きていたブライアンですが、晩年になって奇跡的な復活を遂げ、37年の間お蔵になっていたアルバム「スマイル」を完成。70歳を超える今も、新作を発表し続けています。


音楽はもちろんですが、人間はどんなどん底からも立ち直れるんだという希望を体現してみせるブライアン・ウィルソンは、私にとっては神様のような存在です。中学のときに出会って、もう死んだと思っていたおじさんと、自分がオッサンになってから再会したら、なんとそのおじさんは以前よりも元気になっていた、というような感じ。うれしいを通り越して、驚くような再会でした。


今年になってようやく気づいたのですが、なんとブライアンと私は同じ誕生日。それを知ったとき、私の中でブライアンは遠いところにいる神様から、私自身の中にいる神様のような存在に変わりました。


そして、本当は一人で読んだり書いたりしているのが好きなのに、たくさんの人と関わりながら世間と向合わざるを得ない広告という仕事をしている自分の悩みと、理想の音楽を追い求めたいという願いを持ちながら、バンドのメンバーと折り合いをつけてポップ・ミュージックを作っていたブライアンの苦しみがダブることもあり、中学生のときは他人事のようだったブライアンの暗黒面が、自分の中にもあるように思えるようになってきました。


そんなブライアンの半生を描く映画、「ラブ&マーシー 」を観ました。


映画はブライアンが壊れるようになっていった「ペット・サウンズ」と「スマイル」制作の時期と、精神科医の管理下から復活をとげる時期の二つのドラマが交互に進行する構成。高揚と絶望、地獄と天国が、神がかったポップ・ミュージックとともに観るものの心に迫ってきます。


歳を重ねるって素敵だね。愛することって素敵だね。「ペット・サウンズ」のオープニングを飾る “Wouldn’t be nice”がブライアンの人生と重なり、より深みをもって、私を支える曲となりました。ロックファンはもちろん、落ち込んでいる人や、恋人同士にもオススメの映画です。