雨の中、うろうろ山行 ユガテ〜越上山〜顔振峠〜黒山

昨日、ひっさびさに、仕事も家の用事もない休日に恵まれました。悲しいもので、こういうとき、何をしたらいいのか分からない。う〜んどうしうようと考えている間に時間は過ぎていきそうなので、とにかく家を出ることにしました。ずいぶん山に行っていないので、サクっと行けるところに行こう!図書館で借りていた山のガイドブックを持って、最低限の荷物をザックに詰め込んで外に出ました。


めざす山は、秩父越上山。電車を降りてすぐ登れて、滝があって、温泉がある。ここだ!東横線が池袋までつながることになったので、東急沿線から秩父のほうにはずいぶん行きやすくなった。東横線に乗ってしまえば、飯能までまっすぐだ。さあ、春の山へ!と気分は盛り上がっていたのだが、西武秩父線に乗り換えたあたりで雨が降ってきた。まあ、上がるだろうという気持ちで東吾野駅を降りる。

駅に売店はないし、駅前にコンビニもない。口に入れるものは水とオーガニックバナナ1本なので焦った。とにかく、国道に出よう。線路を左手に小さな橋を渡ると国道に出た。そして、信号をわたてちょっと左に行ったところに小さな商店があった。品揃えが少ない中、ケミカルがなるべく少なくてとにかくカロリーになりそうなもの、ということでフランスパンを1本購入。店のおじさんに天気のことを聞くと「今日も明日もずっとこんな感じなんじゃないかなぁ」と。そして山のガイドブックを見せながらこれから行くコースをたずねると「迷うこたぁないよ、3時間くらいかな。行ったことないけど」と、明るく言われた。そうか、大丈夫だな。おじさんのいい加減な返事をお守りに、小雨の中でも登ってみようと思った。

国道をそのまま進むと、いまは自動販売機しかない小さな商店がある。その商店のところで右に曲がると、福徳寺という、小さくてきれいなお寺に。ここで山行の無事を祈り、「飛脚道」というところから山に入る。やや急なとこもあるが、ほぼ緩やかな坂を歩いていると、「ユガテ」という集落に入る。こんなところに人住んでるんだ!というところに家があり、大きな畑がある。ユガテ、なんとも怪しい響きだが、小さな里山の風景が広がっていて、天気がよければきもちいい場所なんだろうなぁと思う。残念ながら完全にガスってるので、そのまま進む。

ここで道を間違えた。分岐があり、「鎌北湖」と書かれたほうに行かないといけなかった。これまで来た道からまっすぐ整備された道が続いていたので猛進していたのだが、なんだかおかしいと思った。東京電力が立てた「81号」だの「82号」だのを示す標識しかない。そのまま歩くと大きな送電線。送電線整備のための道だったのだ。しかし送電線というのは本当に不細工だ。山の中にこんな巨大な塔を立てるのは大変だろう。孫正義とか飯田哲也とかは自然エネルギーを供給するために送電線網を強化するとか言ってるけど、あの人たちは自然エネルギーは好きでも自然そのものは嫌いなんじゃないかと思ってしまう。自然エネルギーは地元でつくって貯めて使う、R水素がやっぱりいい。道に迷った話のついでに脱線しましたが、おかしいぞ、と思ったところに山菜かなんかを拾いにきたようなおじさんが来たので聞いてみた。「このまま行くとどこに行きますか」と。すると、遠いけど日和田山まで行けるよ、とのこと。おいおい、そこは今日めざしてるとこじゃないよ。

慌ててユガテまで戻る。そして鎌北湖への分岐で曲がり、走る。そのまま走っていると、中年のおばさんのパーティと出会う。「雨であいにくですねぇ。越上山まで行こうと思ってるんですけど」と言うと、「あなた、このままいくと下りちゃうわよ」と言われ、また道を間違えたとこに気づく。「地図持ってる?」と言われギクリ。ナメてたので、山のガイドブックしか持っていない。なんぼ小さくても、山に行くときには地図は必要だ。そして、準備も必要だ。おばさんに地図を見せてもらい、また戻る。「顔振峠」と書かれた分岐で曲がればよかったのだ。こんどは顔振峠に向かって歩く。反省した。地図のこともさることながら、歩き方が悪かった。ただ山を制することだけを考えて走り過ぎていた。ちゃんと、いま歩いている道を楽しもう。おおらかな気持ちで歩いて、ちゃんと標識を見失わないようにしよう。

気を引き締めて歩いているうちに車道に出て、顔振峠へ。あれ、越上山はピークの表示がないのか…。秩父の山道はところどころが車道で分断されている。興ざめな上に、迷いやすい。顔振峠あたりも車道になる。この峠はかつて義経と弁慶が通って、関東平野が見渡せる絶景を眺めるために何度も振り返ったところからその名がついたそうだ。しかし、完全にガス。まったく景色は見えない。さあ、時間もなくなってきた。急ごう。予定では、役行者像を拝んで黒山三滝を眺めて、黒山に下りることになっている。峠の茶屋の向いに「黒山バス停へ」という標識が立っていて、道ができている。よし、ちゃんと標識見たぞ、ここだな、と思ってガーッと下っていった。かなり下った。が、役行者像はない。おかしいぞ。と、山のガイドを開いた。すると、峠から黒山へまっすぐ下りる道がある。ここを下りてしまったのだ。やれやれ。

急登を登り、また峠へ戻る。これは凹んだ。精神的にも、体力的にも。とりあえず休もうと、茶屋に入った。お茶を飲んでいると、もうさっききた黒山にすぐ下りるルートで帰るか、と思った。地図を持って、天気がいいときに出直そうと。揚げ餅、おいしいなぁ。ちょっと元気になってきたので、茶屋のおばさんに「役行者のところに行きたいんだけど、地図ないし難しいですかね」と聞いた。するとおばさん「わきゃぁねえ」と。「道路をまっすぐ歩いて、右のほうに段々がある。役行者、三滝って書いてったら、そこに行きゃぁいい。そこ入ったら1本道だから迷うこたぁねえ」と。こりゃ、行けってことだな。かなり急な下りらしいけど、体力があれば大丈夫、とのことなので再出発。体力は、おばあちゃんの揚げ餅で回復したんだから。

2、30分車道を歩くと、ありました。階段が。慎重に歩いていると、出会えました。役行者に。ああ、あなたに会いたくて、雨の中、迷いながらも歩き続けたんです。雨の中、苔むした木に囲まれたその姿は神々しく、ずっとその場でたたずんでいたかった。でも、雨だ。しばしその神聖な空気を味わったあと、急な坂をゴリゴリ下る。




私の登山靴は革なので、急な下りはつま先とか小指が痛くなる。いてて、いてて、と歩いているうちに、風景が苔やシダ植物の緑に変わってきた。滝だ。まずは男滝、女滝。さすが修験道の山、滝の下まで下りる石段がある。そして天狗滝。ちょっぴり卑猥なシルエットが神秘的で、ずっと眺めていたくなる。私はこういう苔むした清流が大好きで、心の疲れは一気に吹き飛んだ。やっぱり来てよかったと思った。

滝の景色を楽しんだ後は、温泉。黒山鉱泉館というペンション風のホテルのようなものがあったので入った。お風呂は1時間1000円。人も少なくてゆっくり入れました。ここで体の疲れも癒された。残念なのは、風呂上がりのビールがなかったことだ。そこから5分くらい歩くとバス停。その側には東上閣という、これまた温泉施設がある。そこから出て来たおばさんに話を聞くと、こちらは時間制限なしで1050円とのこと。座敷もあるし、きっと生ビールもあるだろう。こっちだったな。次はここにしよう。天気のいいときに地図をもって、東上閣で温泉入ってビールだな。今日は下見だへへへ。



川越バスに乗り、越生の駅へ。旅風情を楽しもうと思ったが、駅前は何もない。帰るか、と東武線へ。しかしやっぱりそのまま帰るのはつまらんと思ったので、坂戸とう駅で途中下車する。ここは寂れた、腐りかけの商店街がある。こういうのが実は好きだ。ほとんどの店は閉まっているのだが、がんばっている店がある。「ほんだ」というお菓子屋さんがあったので立ち寄った。見た目も上品なスイーツに慣れているせいか、無骨でいかにも大味そうなケーキ類が新鮮に感じる。いちばん目を引いたのはシュークリーム。10センチ四方くらいある正方形で、値段は120円ほど。これは珍しいと買って帰った。パイのような生地でたっぷりの生クリームをサンドしたそのシュークリーム、かなりお腹にもインパクトがあった。というわけで、また天気がいいときに行こう、そしてシュークリームは当分いいかな、と思った、おかしな山行でした。